純氷の作り方4.氷の結晶

純氷の作り方4.氷の結晶

4. 氷の結晶

知床の氷筍
撮影場所:羅臼町 マッカウス洞窟
撮影者:藤川友敬さん
(この写真の著作権は撮影者にあります。使用転載は禁止です。)

-10℃で凍らせなければ良い氷ができない理由を述べました。 水が氷になるのは結晶化することですが、その結晶という側面から考えても、-10℃は大切なポイントです。 氷の結晶はなかなか見ることができません。 雪の結晶なら見たことがあると思います。 氷は、水が結晶化したものですが、雪は水が水蒸気になり、大気に放出されてから結晶化したものです。 雪の結晶は6角形の美しい形をしていますが、氷の結晶も同じです。 ただ、結晶の形は、いろいろな条件によって千差万別です。

さて、135kgの氷が完成し大きな透明な塊があります。 美しい1個の氷に見えますが、実はたくさんの氷の結晶が集まってできているのです。(多結晶の氷) 始めは、まずアイス缶のステンレスの内側の面に結晶ができます。 その一つひとつが中心に向かって成長していくので、一定の方向ができます。 これが氷の「目」というものです。 その大きさは鉛筆程度です。

氷は太陽の光にさらされるともちろん溶けるのですが、赤外線などの熱線を浴びると、 この結晶と結晶の結合部が先に劣化し、最初は細い糸のような空洞が無数にできます。 そのため、だんだんと氷の透明度が落ちます。 さらに、熱線を浴び続けると、結合部が簡単に剥がれてくるようになります。
この透明度が落ちることを業界では「ス」が入ると言います。 いずれにせよ、最後は鉛筆程度の1個の結晶氷がパラパラと取れるようになります。 この1個の結晶氷はどこまでも透明で、これ以上分解されることはありません。 製氷機や家庭冷蔵庫でつくる氷は、熱線をあてても、爪楊枝の先っぽ程度しか、結晶の大きさがありません。 氷そのものが先に溶けてしまうので、なかなか見ることはできません。

ここで、ちょっと珍しい氷をご紹介します。 名前を「氷筍」(ひょうじゅん)と言う天然氷で、有名なのは富山県黒部のものです。 黒部ダムを関西電力が作るときに、山奥の秘境で発見したものです。 洞窟の中に、あたかも鍾乳石が、地上からニョキニョキ生えた「筍」(たけのこ)のように見えるので、この名前がつきました。 -2、3℃の洞窟の中で、天井の岩を通してポタッと落ちてくる自然水が凍りながら成長したものです。 直径10cm前後、高さは1m以上のものも珍しくありません。 実はこの氷はたった1個の結晶(単結晶)でできていたのです。 内部には結合部がないのですから、不純物はなく、太陽光の下でも、いつまでも透明で(「ス」が入らない)、すばらしく美しい氷です。 黒部以外でも氷筍は各地で発見されています。 このページ上部の写真は世界遺産になった知床で発見された氷筍です。

結晶が大きいということは、良い氷の一つの要素です。 結晶が大きいと、結合している境界線が少なくなります。 このことは、より氷が硬くでき、熱線が入り込む場所が少ないので、より溶けにくいのです。 当然「ス」も入りにくい。 また、水の中に不純物があったとすれば、この結合部に挟まって残ります。 結晶の中に入ることはできません。 結晶の結合部が少ないことは、それだけ不純物も残りにくく、さらに透明度も高くなるのです。 自動製氷機の氷、冷蔵庫の氷、純氷、氷筍と比べるとよくわかります。

ここで、一つのことに気付かれませんか。 それぞれの結氷温度「-25℃、-10℃、-3℃」と、「爪楊枝の先っぽ、鉛筆、筍」という具合に、氷結温度と結晶の大きさに、関係性があるようです。 -10℃の結氷温度でないと、少なくとも鉛筆程度の大きさの結晶にはなりません。 それ以下の温度では、結晶の大きい良い氷にはならないのです。 結氷温度-10℃は、不純物を排出するのみならず、氷の結晶を大きくする重要な温度なんです。