純氷の作り方6.氷の効用

純氷の作り方6.氷の効用

6. 氷の効用

ここまで、純氷の作り方をとおして、純氷の特質についてお話させて頂きました。 では、その上で、純氷は現代どのように使われているのかご紹介させて下さい。 氷の消費量は文化のバロメーターと言われるぐらいで、飲料用のみならず、実に様々な場面で、純氷が使われています。

・飲料としての純氷

現代では、最も多い氷の利用は飲料用です。 特に純氷は、お酒のイメージアップには不可欠といえます。 洋酒、日本酒、焼酎などのメーカーのポスターや、テレビCMには、必ず純氷が使われます。 自動製氷機製や冷蔵庫製の氷は、ひとかけらもありません。 透明で美しい純氷でなければ、高級感を演出できないからです。

また、氷はお酒を引き立てる脇役です。 主役であるお酒の味を損なうことは、決して許されません。 これまでお話させて頂いた通り、純氷が不純物を徹底的に除去してきた理由がそこにあります。 無味、無臭、完全透明で、クリスタルのように輝くこと。 それが、主役であるお酒と共に、唯一グラスの中に入ることの許された純氷の使命なのです。

また、バーテンダーさんの世界では、氷業者が驚くぐらいの、こだわりの世界があります。 技術的にも素晴らしく、近年流行の丸い氷も、古くからアイスピック1本で、大きな角氷から削り出していました。 最近の機械で削った丸氷に比べ、バーテンダーさんの丸い氷は表面の細かいギザギザが、お酒の中で輝き、まさにブリリアントな輝きを放っています。 バーテンダーさんが求める大きさ、美しさの氷を用意するために、純氷は、時間をかけて丁寧に作られています。

・氷の冷蔵庫

電気式冷蔵庫が普及する以前はどの家でも木製冷蔵庫があり、氷屋が配達した氷で食品を保存していました。 現在ではほとんどなくなりましたが、驚くことなかれ、こだわりの料理屋さんやお寿司屋さんでは、今でも氷の冷蔵庫を使っているのです。

①食材に最も適した湿度を保つ
②食材に温度変化が少ない
③庫内に冷気を送る風が吹かない
④溶け出た水が匂いを外へ運び出す

上にあげたのは、氷の冷蔵庫の利点です。 どうしてこのことが良いことなのか、具体的には「生体反応」と「水の状態」という視点で考えます。

食品は低い温度になると、体内にあるでんぷんを糖分に、たんぱく質をアミノ酸に変化させます。 切り身となった、肉や魚、収穫した野菜や果物であっても、細胞はまだ生きていて、食材が凍らないように自らが引き出す旨みに変わります。 これが生体反応です。実は、この特性を発揮するのに、温度変化がなく、高い湿度を保つ氷の冷蔵庫が最適なのです。

また、食材の水分を見てみましょう。 最近、大手外食チェーンなどでは、収穫から加工、流通まで、すべて4℃で保つ方式をとっています。 これは、水が4℃で最も安定した状態になるからです。 そして、この4℃という温度は、氷の冷蔵庫の温度なのです。 このとき、食材の水分も飽和状態で、この温度を変化なく維持することが、鮮度を保つのに必要になります。

もちろん、氷の冷蔵庫にもデメリットがあります。 それは、氷の補給に手間とコストがかかること。 当然、氷は溶けてしまいますので、その度に新しい氷を補給しなくてはなりません。 氷の冷蔵庫を使い続けると、その量もとても多くなってしまいます。 どんなに氷屋が頑張っても、電気代の方がコストを抑えられるのです。

ところが、最良の状態で食材を提供しようと、氷の冷蔵庫を使い続けているお店もあります。 いずれも名店と呼ばれ、食材に対するこだわりが強く感じられます。 私たち氷屋は、冷蔵庫の氷を補給しに配達に伺っています。 そして非常に繊細な感覚で、食材の鮮度を守り、よりおいしい食材を提供しようとする食の専門家たちに、感服しているのです。 「溶けだした水が、食材の匂いを外に運び出す」これは、お店の方に教えていただいたことです。 氷屋の私どもには気がつきませんでした。 その鋭い視点には脱帽いたします。

氷の冷蔵庫、なかなかすごいと思いませんか?
新型の電気冷蔵庫が出るたびに、氷の冷蔵庫に近づけようとしていることがわかります。 現代でも、食の専門家たちに氷の冷蔵庫が、選ばれていることが、氷屋の誇りだったりします。

・冷やし用の氷 どぶ漬け

「どぶ漬け」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。 屋外のイベントなどで、飲み物を冷やすときに、イベントクーラーなどを用いて、氷水でジュースやビールを冷やすことを「どぶ漬け」といます。 氷水で冷やすと、冷蔵庫などで冷やすより圧倒的に早く冷えるので、多くの方に飲み物の提供ができます。

この仕組みは、温度の違うものが接触したときには「熱交換」が行われ、互いに同じ温度になろうとするためです。 この場合「氷」⇔「水」⇔「飲み物」と熱交換が行われます。 水の熱伝導率が、冷蔵庫の中の空気に比べはるかに高いために、どぶ漬けは、冷蔵庫を用いるよりも有効であることがわかります。 また、このときに飲み物(もしくは氷)を回転させると、さらに速く冷やすことができます。 ご家庭でも、急にビールを冷やさなくてはならないときにはこの方法が大変に有効です。 5分もあればキンキンに冷えます。

さらに氷水で冷やすメリットとしては、氷が温度調節をしてくれることです。 たとえば、冷蔵庫にビールをたくさん入れすぎると庫内の温度が高くなり、冷えるまで時間がかかります。 氷水の場合は、0℃の氷から溶けて0℃の水になるときには溶解熱(潜熱)が発生する原理があります。 この熱を発揮して、ビールがたくさん入って温められる水を、氷がなるべく0℃に近づけようと、早く溶けるのです。  氷がたくさん入っていれば、温度がほとんどあがりません。 やがてビールも冷え、水が0℃に近くなってくると熱交換はゆっくりとなり、氷もゆっくりと溶けるようになります。 氷はどぶ漬けの状態をみて、溶解熱を発生させるかどうか、決めています。 言わば氷は「自動調節機能」を持っているのです。

因みに、ビールは短時間(せいぜい30~40分ぐらい)でさっと冷やして、飲むのが一番おいしいと言われています。 冷蔵庫などに何日も入れっぱなしのビールと、飲み比べてみてください。 本当のビール好きにはこの味の違いがわかると言います。 そして氷水で冷やす温度が、ビールを最もおいしく飲める温度(4~5℃)と一致するのです。

・装飾品としての純氷

大宴会場にひときわ映える氷の彫刻や、冬の雪祭り会場の氷像、さらに、お料理とともに飾られる氷や氷のお皿など、氷は見た目の美しさを備え持っている素材です。 さらに氷の中に、花や商品などの「もの」を入れた展示用のもあります。 一点の曇りのない、どこまでも好き通った氷であること、溶けにくい硬い氷であること、さらに照明などにも「ス」が入りにくいことなど、さまざまなことが要求されます。 その条件を唯一クリアできるのが、純氷なのです。

 

最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。